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業務の引継ぎを組織的に進化させる4つの型③
前回までに、業務に引継ぎを組織的に進化させる4つの型として、①業務の流れ、②行動の型、③資料の型、④思考の型を順に説明してきました。今回は、この4つの類型を元に、部署ごとの引継ぎについての考え方を議論したいと思います。
部署ごとの引継ぎの考え方の検討
前回までに話した4つの類型ですが、これらは実際の職場でどう機能するのでしょうか。会社の各部門を比較する形で深掘りしていきましょう。
たとえばまず、製造部門と総務部門の比較をしてみましょう。どちらも一見すると定型業務が多いという点で似ていそうです。
確かに、行動の型はどちらも作業手順書や注意点ポイント集が中心になり、業務の再現性が重視される点は共通しています。しかし、思考の型は両者は大きく異なります。
製造はたとえばQCDについての考え方が中心になり、明確でモノづくりに直結しています。一方で総務はお客様や各部署の調整の基準が基本の型になり、視野が広く調整役としての役割が出てきます。
この違いは、それぞれの業務が何に向き合っているかを考えると非常によく理解できます。製造部門が向き合うのは主にモノです。定められた品質の製品を決められたコストと納期で作り上げる。だからこそQCDという明確な指標が思考の中心になる。
これに対して、総務部門が向き合うのは人や組織です。社員、他部門、経営層、ときには社外の取引先とか、様々な利害関係者の間に立って調整を行う。だからA部署を立てればB部署が立たないみたいな状況で、会社全体にとっての最適解は何か、という視点が求められます。
なるほど業務の対象が違うから、重視すべき価値観も変わってくる。これは当たり前のことのようですが、対比してみることでその違いが鮮明になってきます。
では次に、営業部門と開発部門を比較して見ましょう。「仕事の流れ」の中心は営業は「行動プロセス」であり、開発は「思考プロセス」が中心になります。外に出て人と会うことにより価値を生む営業と、社内で深く考えることで価値を生む開発。対比して見るとその本質的な違いが見えてきます。
この違いが、思考の型の違いにもつながります。営業の思考の型は、顧客満足や自社商品の競争力について考えることが基準になります。これはまさに、今目の前の市場でどう勝つかという視点です。時間軸が非常に現在に近くなります。
一方で、開発の「思考の型」は顧客ニーズや開発方針が基準になります。顧客を見る点では営業と共通していますが、開発の場合は、まだ顧客自身も気づいていないような潜在ニーズを掘り起こして、数年先の市場を見据えて未来の価値を創造することがミッションになります。つまり、営業が今の戦いを制するための思考法だとすれば、開発は未来の戦いを準備するための思考法。同じ会社にいながら、見ている時間軸が根本的に異なるわけです。
このように理解を深めていくと、部署間の対立の原因なども見えてきそうです。部署によって向き合っているものが違うから重視することが異なり、時間軸も異なっている。部署間で意見の対立が生じるのは、思考の型が違うことから生じる必然的な対立でもあります。しかしながらここで重要なのは、この型をお互いが理解し合うことで、より建設的な議論が可能になるということです。
まとめ
本日紹介した4つの類型は、引継ぎ内容を明確にしていくプロセスでもあります。まず①仕事の流れを書き出して、流れごとに応じた②行動の型を書き出します。次に行動の型ごとに、資料の型を書き出して、最後にそれぞれの思考の型を明らかにしていきます。
これは思考の型こそが最も重要であり引継ぐべき最大のポイントであるにもかかわらず、何も言語化されていない状態から思考の型をいきなり言語化するのは難しい、そこで思考の型を引き出し言語化していくために、①→②→③→④というように大から小へ、抽象から具体へと、連なって芋づる式に引き出していくというやり方をします。その意味で、この4つの類型は業務の引き継ぎのプロセスになっているわけです。そしてすべての類型を各部署で出し切っていくことで、会社のノウハウ体系が完成するわけです。
なお初めからすべてのノウハウ体系を100%完成させようとするのは無限の時間がかかるように思いますので、実務的にはある程度のたたき台になるようなものをつくったら、それ以後は運用して経験しながら追記して精度を上げていくということが現実的であります。
さて、今回紹介した引継ぎの型をつくるという作業は、単にマニュアルを整備することではありません。自分たちの部署がいったい何のために存在して、何を大切にして戦っているのかを組織全体の言葉で再定義するプロセスそのものであります。各部署が自分たちの型を言語化していく過程で、組織全体の自己理解が深まっていく。これこそが今回紹介した4つのプロセスに基づく業務の引き継ぎの方法の最も価値のある部分であるといえます。
株式会社技術経営フロンティア・代表コンサルタント。中京大学大学院ビジネスイノベーション研究科修了・修士(経営管理学)。日本中小企業学会、日本物流学会所属。公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会正会員・専門家登録(Value Engineering Specialist)。