小規模工場のポカミスをなくすには?-仕事の教え方に着目した解決方法
2022年4月17日第36回中小企業経営勉強会を開催します
2022年4月18日
フロンティアの小林です。経営コンサルティングでかかわった小規模工場100社を分析して明らかになった小規模工場マネジメントの成功要因を紹介しています。今日のテーマは「小規模工場において人が定着しない理由は何か?」です。
【要約】
小規模工場において人が定着しない工場と人が定着する工場を比較すると、①仕事の属人化の問題、②仕事の教え方の問題についての取り組みに違いがあることが見えてきました。人の定着のための仕事の属人化と教え方の対策について考えます。
人が定着しない工場と定着する工場がある
小規模工場において、採用した人が定着するかどうかは重要な問題です。工場の技術・技能の蓄積・向上に影響し、会社の競争力に関わる問題ですから、もし問題が生じているならば一度本気で向き合って、解決に取り組む必要があります。
過去に関わったいくつかの工場を客観的に見て分析してみた結果、人が定着する工場と定着しない工場の違いが分かってきました。
定着の違いは何か?
小規模工場において人が定着しない工場と人が定着する工場を比較すると、①仕事の属人化の問題、②仕事の教え方の問題への取り組み方に違いが見えてきました。人の定着についての原因・対策はいろいろと考えられるわけですが、今日は①仕事の属人化、仕事の教え方について考えてみたいと思います。
仕事の属人化の問題
人が定着しない工場にみられる共通点の一つは、仕事が属人化しているということです。
仕事が人に帰属していて、ある特定の仕事がその人にしかできない、その人にしかわからない状態になっていることです。これは会社が仕事を設計するのではなく、個人が仕事を設計していくがために起こることです。
仕事が属人化していると、誰がどんな仕事をしているのか、他の人からはよくわかりません。新しく仕事に入った人はなおさら、会社にどんな仕事が存在しているのか、その人その人に聞くほかありません。
また、仕事が属人化した状態では、仕事の良否の基準が外からはわからず、その人にしか判断できません。他人からは仕事の中身が見えないので、仕事が順調に進んでいるのか遅れているのか、レベル高く出来ているのかできていないのか、外からは判断できません。したがって仕事の良否の基準は、「その人次第」ということになってしまいます。
仕事の進め方が自分基準になっている職場では、「自分は良いと思った」が口癖のように聞かれます。このような状況では仕事の良否の判断が客観的にできません。新しく入った人は、何をどのレベルですればよいのか分からず、たまたま巡り合った職場の先輩の能力に大きく影響されることになります。
さらに、仕事が属人化しているとその人しかできない仕事が存在しているので、仕事量に波があるときなど特定の人に仕事量が偏って、誰かに仕事の負担が集中します。みな定時で帰っているのにだれか一人だけ遅くまで残業・休日出勤までしている、というようなことが起きます。
仕事が属人化していて他の人は手伝うこともできないので、誰か一人に仕事が集中します。仕事の負担が集中している状態で、新しく入ってきた人に仕事を教える時間の余裕はありませんので、教えることがおろそかになります。新しく入社した人は仕事を教えてもらえないまま、何をすればよいかわからず放置される状態に陥り、精神的にいやになって耐えられなくなります。
これに対して、人が定着する工場の特徴として、仕事の標準化が進んでいることが挙げられます。標準化が進んだ会社では、どのような仕事が存在していて、何をするのか、会社として仕事の設計があり、またどのレベルで行うのかの基準が会社として定まっています。職場において誰がどんな役割を負っていて、何のために何をしているのかが見えるようになっています。
標準化が進んだ会社では、仕事の良否の判断は、会社の基準に照らして判断されます。会社に基準に対して悪ければ悪いという評価が下されます。
先輩個人が自分の価値基準で判断すると、それは基準があってないようなもので、人によって判断基準にばらつきが出るので、評価もバラバラになります。
あくまで会社の基準に照らして良いか悪いかが判断されることになるので、悪いと評価された場合は次に何を改善していくべきかがわかります。
また、標準化が進んだ会社では、誰が何をしているのかが見えるので、仕事の進捗や仕事の負荷も周りから見え、仕事を手伝うなど協働することができます。
この場合、仕事の偏りも少なく、基本的にはチームで仕事をやり遂げるような環境になっています。
仕事の教え方の問題
人が定着しない工場では、仕事の教え方に問題があることが多いです。そもそも仕事の教え方を教えないまま教える仕事を任せるので、人によって教え方がバラバラになります。場合によっては同じ仕事に対しても人によってやり方が違うということがよく起きます。
結果が同じであればやり方が違っても許容されるかもしれませんが、そのやり方ではミスが多発する・・・というような質の低いやり方を教えている場合もあり、問題です。
仕事を教えるための明確な仕組みがなく、教える内容・方法も決まっていない。これでは教え方にバラつきが大きく出るので、新人さんはだれにつくかによって人生を左右する、不公平な状態になります。
また、人が定着しない工場では、教え方が極端な「見て覚えろ・失敗して覚えろ」式になっていることがよくあり、現場で実際にはほとんど仕事を教えていない、ということがあります。
ある程度経験があって根性のある人であれば、教わらなくても自分で突き進んで仕事を覚えることがあります。しかしこの場合は仕事を教えてもらえないので自分で仕事を設計し、自分流のやり方で仕事を進めていくことになります。
そうすると自分にしかわからない仕事のやり方ができあがることになるので、上記で述べた仕事の属人化の世界に突入していくことになります。
仮に教えることが行われていたとしても、教え方が断片的で学ぶ側は大変覚えづらい、という場合があります。先輩が目先の仕事を部分的にその都度教えていて、思い付きで次から次へと仕事を教えるので、習う側は何の仕事が全体像が見えないまま、手段だけを覚えることになります。
これでは仕事の流れや全体像が見えないので、何の仕事だったか覚えるのが難しく、理解も難しく、すぐに忘れてしまうことが起き得ます。それで何回も先輩に聞く羽目になるのですが、聞くこと自体も負担なので、習う側はすぐにいやになってしまいます。
これに対して、人が定着する工場を観察してみると、仕事の教え方について決まりがあり、教え方の基準もおおむね決まっていて、教え方の標準化が進んでいます。だれもが思い付きで教えるような状態ではなく、教える人は一定の基準をクリアした選ばれた人に限定されています。
仕事を見て覚えろ・失敗して覚えろというのも確かに大切なことなのですが、効率的な作業の進め方やミスの起きない作業のやり方など、すでに分かっていることは事前に教えて欲しいものです。
人が定着する工場の教え方は、大事な経験的なことは作業手順に反映させあり、会社のノウハウとして正しい作業のやり方・ミスの起きないための注意点などを最初にきちんと教えるようにします。その上でチャレンジして失敗があれば、そのとき気づきもあるだろうし、基礎を学んだうえで応用的なことを考えていくようになるので、仕事の進歩が生まれます。
人が定着する工場の特徴としてもう一つ挙げられるのが、教えるべき仕事の中身が明確になっているということです。そしてクリアすべき仕事の基準も明確になっており、何をどの程度まで行えば合格なのかがわかるようになっています。
そのため教える側も会社の基準に沿って教え、会社の基準に沿って評価するので、学ぶ側は目指す方向が見えてきます。
教えるべき仕事の中身が明確になっている場合、学ぶ側は仕事の全体像がわかり、個々の仕事の位置づけや意味がわかるので、効率よく覚えることができます。したがって習熟が速くなります。
いろいろな工場を回っていると、同じ仕事なのに工場によって習熟のレベルが全然違う、ということは時々目にしますが、これは覚える人の問題ではなく、会社の教え方の問題ではないかと思います。
仕事の教え方に問題があった
小規模工場を比較してみると、人が定着する工場と人が定着しない工場に分かれます。両者を比較してみると、仕事の属人化と仕事の教え方の問題が見えてきました。
人が定着しない工場では仕事の属人化が進んでおり、かつ、仕事の教え方に問題があったということです。
仕事の属人化と教え方の問題は、人の定着の問題を生むだけでなく、仕事の習熟スピードの違いとなって現れてきます。現場社員の技能向上のスピードが遅くなり、技術・技能のレベルがなかなか上がってこないということが起きます。
反対に、仕事の標準化が進み、仕事の教え方についても標準化してレベルを上げていくような会社では、入社した社員の技能習熟のスピードが速くなるという特徴があります。
株式会社技術経営フロンティア・代表コンサルタント。中京大学大学院ビジネスイノベーション研究科修了・修士(経営管理学)。日本中小企業学会、日本物流学会所属。公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会正会員・専門家登録(Value Engineering Specialist)。