工場管理・現場改善・経営コンサルタントの仕事-小規模工場の困りごと
2022年5月17日経営コンサルティングの事例-中小企業・製造業・工場の業務改革、生産性向上支援
2022年5月19日
フロンティアの小林です。経営コンサルティングでかかわった小規模工場100社を分析して明らかになった小規模工場マネジメントの成功要因を紹介しています。今日のテーマは「離職率が高く入社3か月未満の退職者が多い工場・製造現場の共通点」です。
【要約】
同じようなモノを作り、加工をしている工場であっても、離職率が高く人がすぐに退職してしまう工場・製造現場と、そうでない工場があります。その違いは何でしょうか。比較分析した結果、仕事の属人化、仕事の教え方、仕事の習熟、コミュニケーションの問題が見えてきました。
退職者の話を聞いてみると原因は人間関係の問題が多い
普段コンサルタントとして工場に関わっていると、退職者が多い、すぐにやめる、長続きしない、やっと戦力になると思ったらやめてしまった・・・という事例に直面します。
会社を辞めるのは何かの事件がきっかけになることが多いようです。過去に退職者の本音アンケートを実施した会社がありましたが、例えば上司に叱られた、無理難題の指示があった、きちんと教わっていない、言葉使いが気に入らなかった、同僚がひどく怒鳴られていた・・など、人間関係に関わることが多いです。
退職者の問題として捉えていると解決せず、同じようなことが繰り返し起きてしまいます。自分たちに(会社に・職場に・上司に)問題はないか、改善策を考えていくことが必要です。
また、会社をやめるわけではないけれど問題があるケース・・・例えば良い人と思って採用したのに期待通りでなかった、最初は意欲高く入社してきたのに、すぐに無気力になっていった事例をよく目にします。
私はコンサルタントとして意欲をなくした工場作業者と接するのも仕事ですが、なぜ無気力になっていったかは、当事者と接していくうちにわかってきます。
最初から無気力だったわけではなく、過去に起きた何かの事件(本人にとっての事件)がきっかけになって、自分の心理状態や仕事への取り組み方が変わってきたということが多いです。
退職者の多い工場・製造現場の共通点
工場によって、人がすぐに退職してしまう工場・製造現場と、そうでない工場の違いは何でしょうか。あるいは意欲的に働く工場とすぐに無気力になってしまう工場の違いは何でしょうか。
人のことに関してこのような問題の起きる工場を観察して見比べてみると、共通点があることがわかってきました。そこで「退職者の多い工場・製造現場の共通点」をまとめました。
仕事の属人化
離職率が高く、入社してもすぐに会社を辞めてしまうような退職者の多い工場・製造現場を観察してみると、第1に仕事の属人化の問題が発生しており、下記のような共通点がみられます。
・特定の仕事が特定の人にしかわからない状態になっている
・仕事の負担が誰かに偏っている
・人それぞれ、自分なりのやり方でやっている
・仕事の良否の判断が自分次第になっている
仕事の内容がある特定の人にしかわからない状態になっており、他の人からは何をしているかわからないので、学ぶことが非常に大変です。その人にいちいち聞かないことにはわからないし、覚えることの全体像も先も見えません。先が見えない中で仕事を覚えろと言われても、不安でいっぱいでそのうち不満に変わってしまいます。
教える側も、自分にしかできない・自分にしかわからない仕事なので自分が忙しく、自分に仕事が偏っていて教える時間的余裕もありません。自分には習慣化されているような仕事なので、一から教えることに苦痛を覚える人もいて、教えることがうまくいきません。
また、人それぞれ自分のやり方でやっていて自分のなりのやり方になっていると、何が良くて何が悪いのか、その人にしかわかりません。習った人は良いと思ってしていることが、後々から否定され怒られたりします。また、仕事の良否の判断が自分次第になっていると、良否の基準が人それぞれその時々ブレるので、仕事を習うほうが何をすればよいのか分かりません。
仕事の教え方
第2の共通点として、仕事の教え方に問題があり、下記の特徴がみられます。
・仕事を教えるための仕組みがない(いつ・誰・何・どのように)
・教える人によって言うことが違う
・作業の目的、必要性・理由の説明がない
・口頭のみで教えるので立ち返るものがない
仕事を教えることを特に重視せずに現場に放り込み、その都度声をかけて教えるようなやり方をすると、覚える側は強い不安がわいてきます。
教えることは計画的に進めることが大事です。どこを目指すのか、何を、どのような順番で覚えていくのか、教える時間をどのように取っていくかの計画性がないと、教える側も覚える側も時間が取れず、あいまいなまま時間だけが過ぎていくことになります。
教える人によって言うことが違うことも不安をかりたてます。何をおぼえ、何をすればよいのかがわからないからです。しかしモノづくりの現場の場合、人によって加工方法が違うというのは普通にある事なので、教えるときの配慮・工夫がないと覚える側は混乱します。よかれとおもってみんなが新入社員に教えようとして、みんながバラバラなことを言うので耐えられなくなる、ということも実際に起きています。
仕事の手段だけ教えても、目的や意味・理由・必要性などを教えないと応用が利きません。仕事が多品種複雑化している状況において、すべての手段を手取り足取り教えていくことは難しく、応用的に考えられるように仕事の目的からきちんと教えていく必要があります。
また仕事が多様化しているので口頭の説明だけで一度で覚えられるわけでもなく、モノづくりの現場では手作業しながらメモを取るのも難しい場面があるわけで、学んだあと立ち返る場所が必要です。
振り返り・立ち帰りの場所として、文書による引き継ぎ・参照できるモノがあるだけで、覚える側は安心感が全然違います。
仕事の習熟
第3の共通点として、仕事の習熟のプロセスに問題があり、下記の共通点がみられます。
・覚えるべき事の全体像が見えない、方向性が見えない
・技能向上、習熟の道筋が見えない、目標が立てられない
・習熟評価が不公平、評価者によってバラバラ
・仕事のミスに対して批判されるだけで原因がわからない
技能向上・習熟の道筋が見えて、今ここで頑張れば将来こんな自分になる・・ということが見えている場合、今頑張ろうという意欲がわきます。反対に、将来の道筋が見えず、今ここで頑張っても先々どうなるかわからない・・となると意欲はわいてきません。
モノづくりの現場では、これから覚えようとする仕事の全体像・仕事の流れ・仕事の構成が見えるようになっており、どのように訓練していけばどのようなレベルになっていくのかがわかる状態になっているべきです。覚えるべき事の全体像が見えていると、習熟の目標も立てられるので、目標に向かって頑張ろうという意欲もわいてきます。
習熟の評価が不明瞭な場合も、不安と不満を生みます。習熟評価の項目と基準が明確になっていて、確かに上達したことが実感できる制度作りが必要です。また、してはいけないことも明確になっていると注意力を挙げたり予防の対策をすることもできます。
言われなければ気づかないようなことをミスが起きてから指摘されて、解決策も一緒に考えてくれないとなると、解決できないので先が見えません。自分で気付くのももちろん大切なことですが、習う側としてはすでに分かっているようなことは事前に教えておいてほしいものです。
コミュニケーション
第4の共通点として、コミュニケーションに問題があり、下記の共通点がみられます。
・外発的な動機付けに偏った働きかけ
・指示命令に偏っており自分で考える余地がない
・情報を知らされない、説明がない
・情報伝達経路が不明確、誰に何を伝えるかがわからない
最近は「自己決定」欲求の時代、と言われています。自己決定の場面があるほどモチベーションが高まる、という考え方です。また、多品種単品生産の現場では、指示されたことだけをやっていればすべてに対応できるわけでもなく、現場で常に判断が迫られるような環境になっています。
自分で考えて行動できる環境が整備されている職場ほど、社員が成長し自発的・意欲的に取り組んでいく傾向があります。リーダーが指示命令し従うことを強要するような接し方をしていると、自己決定の機会が奪われるので、作業者は仕事へのやりがいを見失ってしまいます。
またホウレンソウをはじめ、仕事をしていく上で必要な情報・知識など、先に知らせてくれればいいのに、失敗してトラブルになった後に怒られて、その時初めて知った・・そんな場面もよくみかけます。反対に、自分から何かを伝えたいと思ったときに、誰に言えばよいかもわからず周りの人も話を聞いてくれないとなると、自分勝手にでも事を進めるしかないようになって、後になったまた怒られてやる気を失う・・そんなことが現場で起きています。
4つの問題を解決しよう
離職率が高く、入社してもすぐに会社を辞めてしまうような退職者の多い工場・製造現場に見られる共通点として、仕事の属人化、仕事の教え方、仕事の習熟、コミュニケーションの問題を取り上げました。上記のような問題が起きていて、放置されている職場では、離職率が高くなります。
反対に、離職率が低く、勤務が長続きして技能網向上していく、人が定着する、意欲的に働く、皆が前向き自発的に動く、そんな工場・製造現場も存在するわけですが、この場合には上記の4つが満たされているか、もしくは上記の4つについて改善の取り組みをしているということもわかっています。したがって離職率が高く、入社してもすぐに会社を辞めてしまうような退職者の多い工場・製造現場では、上記に挙げた4つの項目を一つ一つ解決していくことによって、人が定着する工場に変革していくようにします。
株式会社技術経営フロンティア・代表コンサルタント。中京大学大学院ビジネスイノベーション研究科修了・修士(経営管理学)。日本中小企業学会、日本物流学会所属。公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会正会員・専門家登録(Value Engineering Specialist)。