小規模工場の改善活動を活性化するには-共通の目的が大事
2022年4月17日小規模工場の人が定着しない理由は何か?-仕事の属人化・教え方の問題
2022年4月18日
フロンティアの小林です。経営コンサルティングでかかわった小規模工場100社を分析して明らかになった小規模工場マネジメントの成功要因を紹介しています。今日のテーマは「小規模工場のポカミスをなくすには?」です。
【要約】
小規模工場の現場作業においてポカミスが続出する場合、人に関する分析の仕方として①正しい作業を知っているか知らないかに分けてそれぞれ状況を分類して掘り下げて、具体的な対策をしていく方法があります。
小規模工場の現場作業においてポカミスが続出する場合、個別に原因を見極めて具体的な対策をすることが必要です。原因は4M(材料・設備・人・方法)に沿って分析することが考えられますが、今日は「人」に着目した対策の一例を紹介します。
ポカミスの問題点
工場のポカミスは人が仕事を進めるうえでの人のミスです。ポカミスがあると不良・不具合が発生し、仕事が停滞したり、後戻り・やり直し・作り直しが生じて業務上のロスが生じます。
不良・不具合品が社外に出れば顧客クレームになり信用問題になるほか、対応のための時間・人員、調査、仕事のやり直しなどが生じて膨大なロスが発生します。
ロスによって追加的に発生するコストが原価の2倍で済めばよいですが、実際に対応していると3倍以上かかっているように感じます。ポカミスによって生じたコストはそれに見合った売り上げはもちろん得ていないので、回収できません。
さらに、ポカミスによって何らかの不具合が生じた場合、実際に発覚した時点とミスが発生した時点にズレがあり、発生状況の把握や原因分析が難しくなる場合があります。
また、当事者である本人は意図的にミスをしているわけではなく、正しいことをしたはずだと思っているので、まず本人が受け入れられなかったり、それをみて周りの人が人ごとのように見たりすることがあって、人間関係のトラブルにもなりかねません。
人間関係のトラブルは生産性に影響するので対処していかなくはなりません。
ポカミスは単に「間違えてしまった」というだけで済まず、多方面に多大な影響を及ぼすことになるので、放置できないのです。
ポカミスが起きる状況の分類
小規模工場において、製造現場・製造作業についてポカミスが起きる場合の要因はいろいろありますが、例えば次のように分類することができます。
原因(1)正しい作業の進め方を教わっていない
原因(2)正しい作業の進め方を教わっているが覚えていない
原因(3)正しい作業の進め方を知っているができなかった
原因(4)正しい作業ができるのに行なわなかった
ミスの対策を考えるときは、分類に沿って該当する要因を探して対策を具体的に考えるようにします。
ポカミスの状況を分類する際に、ここでは「仕事を教わったかどうか」「知っていたかどうか」を基準にしています。小規模工場の製造現場を回っていると、仕事の教え方にあまり力を入れておらず、そもそも仕事の教え方に問題がある場合があります。もし教えていなかったら?という問題意識を出発点にします。
正しい作業の進め方を教わっていない
第1の分類は、作業に必要な基礎知識を教わっていないがために、ミスが発生する場合です。この場合には、ミスをしないような正しい作業の進め方を教える・覚える必要があります。教えるためには作業の基準が決まっていることが必要なので、作業手順書によって正しい作業が定められていることが必要です。
作業手順に沿って、手順と注意点を順に教えます。注意点に対しては目的があるはずなので、何のために注意が必要か、なぜ必要なのか、それをしないとどうなるのかを教えるようにします。単に手段だけ教えるのではなく、目的まで含めて教えるようにします。
教える作業をおろそかにする製造現場では、後々になってミスが多発するということがあります。
正しい作業の進め方を教わっているが覚えていない
仕事の覚えたてのころはすぐに忘れやすいので、知ったことを覚えているかどうか、里香強いたかどうか、教える側の人はたびたび確認する必要があります。
まず知っている状態から理解した状態に高めていく必要があるので、教える側の人は習う側の人に対して何度か質問をします。教えているときにもし「わかりました」という返事が来るようなら、何をどう「わかったのか」を本人に言葉で説明してもらうようにします。言葉で順序だてて明確に話すことができれば、かなり理解している証拠になります。
次に理解したことを行動に移せるかどうかの確認が必要で、これは繰り返し練習し、たびたび確認することです。仕事の覚えたてのころは教えた後を見ることが大事で、教えっぱなしで放置しないことです。
正しい作業の進め方を知っているができなかった
理解がある程度できていれば、あとは作業を繰り返して出来るようにします。体が覚えて体で動けるようになるまで、繰り返し練習します。
練習は、ポイントを絞って具体的に意識しながらすることです。なんとなく作業を繰り返しても習熟のレベルは上がっていかないので、どの作業のどの動作をどのように考えて行うのか、焦点を絞ったトレーニングをするようにします。
ある程度繰り返して仕事ぶりが安定してきたら、次に応用力を鍛えていきます。原則・通常を理解した上で、状況に合わせて判断できるかどうかの訓練を行います。応用力の訓練は、まずは基礎力が出来てから、次の段階にすることです。はじめから応用的なことを教えても頭に入らないので、基礎の習得を体で覚えるくらいになったら、次の段階に入るようにします。
作業の標準化が必要なことと同じように、教え方も標準化することが必要です。
仕事の教え方を標準化していない小規模工場は多いです。教える人によって教え方がバラバラでは、習う側は運任せで、教え方が上手い人に付けば上達し、教え方が下手な人に付けば上達が遅く、自分の習熟評価にも影響します。
ミスをなくす職場を作っていくためには、最初に教えることをどのレベルでやっているかがとても重要になります。最初の教える時点でばらつきがあれば、作業もばらつきが出て、ミスも多発し、品質や仕上がりにもばらつきが出ることになります。
正しい作業をできるのに行なわなかった
正しい作業をできるのに行わないようなケースは、本人に何らかの理由があることがあります。
例えば、
①理解しているが腑に落ちていない、納得していない場合
②必要性を正しく理解しておらず、これくらいで良いと考えている
③自分で基準を下げている
④個人の心理的要因(集中できない、責任感が持てない、他の事が気になって仕事が雑になる・・・など)
という場合があります。
この分類ごとに対策を考えることになるのですが、まず本人とよく話すことが必要です。
①の場合は本人の理解していること考えていることをよく聞きとって、本人の心の中で納得できる理由が見つかるまで、話して働きかけていくことをします。
②の場合はミスが起きたときに実際にどんなことが起きているのかを本人が理解していない場合があるので、現実の世界を直視させるようにします。工場の仕事はすべてつながりがあって、ある人がミスをすると後の工程からお客様まで、QCDの面であらゆる影響があり、多大な迷惑をこうむっていることが通常です。そのあたりの想像力がないというか、知らないと、必要性を低く評価して「これくらでいいか」というような仕事になることがあります。
③は仕事一つ一つに対して自分がどのように考えているか、プロとしてどのように仕事に取り組んでいくかの意識の問題もありますが、多くの場合、最初の教え方に問題があることがあります。例えば教える時点で教える側がハードルを下げて、低い基準で教える、これくらいの間違いはいいよ、というような教え方をしていると本人は仕事の基準を下げた状態で仕事を覚えていきます。反対に、最初に教えるときに「この仕事は絶対にミスできない大事な仕事なんだ」というように入っていけば本人は仕事の基準を高く設定した状態で仕事を覚えていきます。
④のときは仕事もしくは仕事以外で心理的な問題を抱えている場合もあり、同じようなポカミスが繰り返し発生することがあります。この場合に本人に対して批判的な雰囲気ができるとさらに悪化することがあるので、管理者が本人とよく話して本人の状況や考えていることをよく理解していくことが必要です。
例えば本人とミスについて話したときに、本人が「気をつけます」と言ったとしてもそれだけでは不足なので、上司として親身になって本人と同じ目線で「どのように気をつけたらよいか」を一緒に考えるようにします。
ミスをなくしていくため、まずは本人とよく話して、本当の原因を良く把握し理解するようにすることが大事です。本人とともに考えて解決していこうとする姿勢を示し、問題意識を共有するだけでも、本人の行動に変化が出ることがあります。
仕事の基準を下げてはいけない
小規模工場において、ポカミスが発生する状況をいくつかの工場で比較してみると、偏りが見られることがあります。同じ仕事をしていたとしても、工場によってはポカミスの多い職場と少ない職場に分かれます。
さらに、同じ作業をしていたとしても、作業者によってポカミスの多い人と少ない人に分かれます。工場・職場・作業者によってポカミスの発生が偏ってきます。
ポカミスが発生する職場・作業者とポカミスが発生しない職場・作業者の違いは何か?ポカミスが発生する職場・作業者の共通点は何か?というように考えていったときに、今日紹介した「仕事の教え方に着目した解決方法」が考えられたわけです。
私自身の経験ですが、現場リーダーを10年勤めていた際に、ポカミスが発生する場合の状況の共通点として、作業者が「これくらいはいいか」というように、仕事の基準、業務品質の基準を下げていることがあります。
作業者自身が仕事の基準が下がった状態で仕事をすると、緊張感・集中力・注意点が不足して、ポカミスが発生しやすくなります。そして一度下がった基準はなかなか上がってきません。
これは最初に仕事を教えたリーダー・上司・先輩にも原因があります。仕事を教える際、とくに最初に仕事に入る最には仕事の基準を高く持って、ミスは許されない、という基準と緊張感をもって仕事に臨むようにすることが大事です。
【参考文献】森田福男「安全作業標準の考え方作り方」p.57
株式会社技術経営フロンティア・代表コンサルタント。中京大学大学院ビジネスイノベーション研究科修了・修士(経営管理学)。日本中小企業学会、日本物流学会所属。公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会正会員・専門家登録(Value Engineering Specialist)。