中小製造業・工場の社員向けの研修
2023年2月12日業務改革を進めて新しい時代に合った成長企業づくりをお手伝い
2023年4月30日
中小工場・作業者の技能育成のポイントの一つは、知覚を広げること
知覚の範囲
自分の成長に大事なことの一つは、自分の「知覚」の範囲を広げていくことです。人は自分の知覚することしか理解できず、行動できないと言います。
人の知覚の範囲は人によって異なり、それは持っている知識や経験によります。人それぞれ持っている知識・経験、体験、育った環境、受けた教育などが違うので、知覚も人によって異なることになります。
同じことを話したとしても、人によって理解されたり理解されなかったり、あるいは異なる解釈をしたり、と差が出るのは人によって知覚の範囲が違うからでしょうか。
知覚を鍛える
知覚は訓練することによって伸ばすことができると言います。知覚の範囲を広げることは、気づける力を高めることにつながります。
「気づける力」「気づく力」は、工場で働く作業者にとってとても大事な能力です。とくに多品種単品生産のような加工をしている工場では、加工作業者の「いつもと違うな」「こうしたほうが良いのでは?」「もしかしたらこうかもしれない」などのように「気づく力」があるかどうかが、生産力を高めていく上でとても大事です。
工場の製造現場で求められる「気づく力」を上げていくには、知覚の範囲を広げるようにします。知覚の範囲を広げるには、どうしたらよいでしょうか。
『神田房枝「知覚力を磨く」ダイヤモンド社』によると、
知覚力を磨くには
1.知識を増やす
2.他者の知覚を取り入れる
3.知覚の根拠を問う
4.見る/観る方法を変える
ということです。
「知識を増やす」とは?
「知識を増やす」というのは、専門知識を掘り下げて知識を補充していくことだけでなく、周辺の近い領域の専門分野の知識を探っていき、知識を広げていくことです。
周辺の専門分野であれば全く異なる分野よりは勉強しやすいでしょう。たとえば加工だけでなく機械のプログラムや設計の方面の勉強をするなど。あるいは前工程の仕事、後工程の仕事に関心を持って学んでみる。または違う材料や違う製造物の構造を学んでみるなど。知識の基盤を拡大してくことです。
新たな知識を仕入れることで、もともとの専門分野のモノの見方・考え方の切り口や解釈に選択肢が広がることがあります。
「他者の知覚を取り入れる」とは?
「他者の知覚を取り入れる」というのは、背景や経験の異なる人の意見を聴いてみる、考え方を知る、自分の仕事に取り入れてみるということです。
工場の中で毎日働いていると、社員同士が同じような考え方に偏って同質的になってくことがありがちです。先輩がこうしているからとかベテランの考え方がこうだから、というのが引き継がれていくのでその中で同質的な考えに凝り固まっていくことがあります。
そんなときに、例えば同業でも周辺でも取引先でもお客様でも、別の工場に見学に行ってみると効果的です。同じような加工なのに会社によって全然違う考え方・方法を選択しています。
背景の異なる人々の仕事ぶりに触れることで、自分の仕事ぶりに対して考えが変わったり行動が広がることがあります。
「知覚の根拠を問う」とは?
「知覚の根拠を問う」というのは、自分の解釈や行動、判断、感じたこと、考えたことに対して、なぜそう思ったのかを自問することです。
そうしたのはなぜでしょうか。そう思ったのはなぜでしょうか。なぜ、それが正しいと言えるのでしょうか。あらためて問い直してみると根拠があいまいだったり、根拠なく習慣的にそうしていただけ、と言うこともあります。
そこで根拠を問い直し、根拠を得るために調べてみたり、本当は違う方法が良いかもしれないと探求することで、あらたな行動につながることがあります。
工場においては、例えばベテラン作業者と中堅・若手の作業者で同じ図面をみて加工方法を議論することです。加工後の最終の形は同じであっても、加工方法は様々あり、その中から人が考えて最適だと思う方法を選択して加工しています。その根拠は?と問い直すことで、新たな発見、自分の気づいていないことを知る、などの効果があります。
あるいは、大ベテラン2人が加工の根拠について話し合うところを、若手が聴くというのもとても気づきがありました。ベテラン二人はどちらも高いレベルの加工をするのですが、手段の選択や根拠が異なることがよくあります。
このような違いを知ることは若手作業者からすると、とても気づきの多い機会になります。
「見る/観る方法を変える」とは?
「見る/観る方法を変える」というのは、人の5感のうち視覚から得る情報が最大であるということから、モノを見るときの目、視点を変えてみるということです。
たとえばベテラン技能者が加工をしているところを観察していると、何を「見ているか」がとても重要なことに気づきます。変化や特徴、注意点を目で見ることで認識しています。
もちろん音を聞いたり触感で感じ取ったりすることも駆使しますが、目で見た情報から危険や変化を予感し、修正行動をとっていくことで、安定した製品を生み出しています。
そこでベテラン作業者は何を「見ているか」を意識して技能習得・技能向上に生かしていく、というのもOJTの一つの要素になるわけです。
振り返りが大事
上記の他に、知覚を広げるためのトレーニングとして、私が体験的に効果があると思っていることは、「振り返り」です。仕事の後に振り返りをすることです。
最初に予定したことと比べて実際がどうだったか。行動目標に対して実際はどんな結果になったか。得ようとした成果に対して、実際に得られた成果は何だったか。
予測できたことか、思いがけないことが起きたのか。不足・問題・課題は何か、余剰・時間のかけすぎなどはなかったか。
振り返りをして最初に思い描いたこととのギャップを認識し、ギャップを埋めていくように改善行動を考えて実行します。こんなサイクルを日々、仕事の区切りごとに繰り返します。
ある工場において体験したことですが、組立の職場において、製作のロットごとに、製作が完了した都度、担当した作業者4名が集まって振り返りをするようにしました。
振り返りの場では、生産目標に対しての実績の振り返り、予定した時間に対して実際にかかった時間、ミスやヒヤリハットはなかったか、後戻り・やり直しは起きなかったか。起きた場合はなぜ起きたのか、どうすれば改善できるか。あるいは、作業の方法に改善点はないか、モノの置き方や動作の変更で負荷を減らせないか、などについて、気づいたことを話し合います。
そして改善点を見出して言葉にして、改善行動に変えていきます。この振り返りに要する時間は数分です。手を止めて立ち止まって集まり、数分間みんなで振り返りをするのです。
このような振り返りを仕事のプロセスに織り込んで実践したところ、1年後には製作のリードタイムが3分の2にまで短縮されたことがありました。
振り返りによって気づきを集め、仕事に反映させていくことで、仕事のスピードが上がっていきました。
振り返りを仕事のプロセスに取り入れて組織的に行うことで、チームとして・一人一人、気づける力が上がり、改善力が上がり、現場の生産性が上がっていったのです。
株式会社技術経営フロンティア・代表コンサルタント。中京大学大学院ビジネスイノベーション研究科修了・修士(経営管理学)。日本中小企業学会、日本物流学会所属。公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会正会員・専門家登録(Value Engineering Specialist)。