小規模工場の製造現場の改善-「成功する改善活動」の共通点
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2022年2月26日
フロンティアの小林です。経営コンサルティングでかかわった小規模工場100社を分析して明らかになった小規模工場マネジメントの成功要因を紹介しています。今日のテーマは「小規模工場の改善活動が続かない理由」です。
なぜ、小規模工場の改善活動が続かないのか
改善活動をしている小規模工場はたくさんありますが、改善活動によって継続的に成果を上げ続けている工場もあれば、形だけの改善活動に陥っている場合もあります。形だけの改善活動は実際の意味がないので、活動が続かなくなって自然消滅していくということがあります。
改善活動が続かない理由を集めてみると、大きく分けて次の4つがあります。
(1)改善提案が出ない
(2)改善成果が出ない
(3)改善成果が見えない
(4)改善活動のマンネリ化
今日は改善活動が続かない4つの理由について考えてみたいと思います。
改善活動が続かない理由を掘り下げる-原因と対策
改善提案が出ない
小規模工場において改善活動が続かない理由の1つとして、「改善提案が出ない」という理由があります。改善の提案を出すように促しても、作業者から改善提案がなかなか出てこないという悩みです。改善提案が出ないので、活動自体が行き詰まって長続きせず、次第に自然消滅していくということが起きます。
改善提案が出ない原因として、作業者が改善テーマを見つけるために必要な知識・技術を持ち合わせていない場合があります。管理者は作業者に改善提案を出すように言うけれど、改善テーマの見つけ方や改善活動の進め方を教えていない工場は意外とたくさんあります。改善テーマの見つけ方を教えることによって、人は考えるきっかけができるので、多くの場合これで解決することができます。
改善テーマの見つけ方のポイントは、「作業分解」と「4大ロス」です。
作業分解とは、作業を構成要素にバラバラに分解することです。例えば形のあるモノが壊れた場合、モノを構成部品ごとにバラバラに分解します。分解した一つ一つの部品に対して異常がないかチェックして、問題があれば修理したり交換したりして、モノを直します。
作業の場合も同じように考えます。工程は作業のかたまりで、作業は動作のかたまりです。対象となる仕事を工程・作業・動作に分解します。分解した一つ一つの作業・動作に対して、問題はないか順にチェックしていくことで、改善点を見つけることができます。
4大ロスとは、「探す・迷う・手待ち・やり直し」です。作業分解した一つ一つの要素について問題点を見つける際に、「4大ロス」の視点を使います。
4大ロスがあると、主に時間のロスが生じます。時間が追加的に発生するコスト(ロスコスト)になって利益を目減りさせます。このロスコストを解決するために、見つけた4大ロスを改善テーマにします。
4大ロスの使い方は、分解した作業や動作に対して、4大ロスを使って一つずつ見ていきます。自分の作業の最初から最後までを見渡して、「探す」場面はないか、「迷う」ことはないか、「手待ち」は起きていないか、「やり直し」は生じていないかと順に検証します。もし「○○を探している」「○○を待っている」などが起きていればロスが生じていますので、これを改善テーマにします。例えば「○○工程で起きる○○のやり直しをなくす」というようにして、改善テーマを設定するようにします。
改善成果が出ない
小規模工場において改善活動が続かない理由の2つ目として、「改善成果が出ない」という理由があります。改善活動を実施したとしてもたいした成果が出ない、という悩みです。成果が出なければ活動自体の意味が感じられなくなり、改善活動が続かなくなるのです。
「改善成果が出ない」原因の一つは、改善成果が出ないような小さなテーマを取り上げているか、または普段の作業とかけ離れたテーマを設定している場合です。これは「(1)改善提案が出ない」で説明したように、作業分解と4大ロスを使うことによって具体的なテーマを選定することによって解決することができます。
他に具体的な改善テーマを見つけるときの視点として、7つのムダ(加工のムダ、在庫のムダ、作りすぎのムダ、手待ちのムダ、動作のムダ、運搬のムダ、不良・手直しのムダ)があります。職場から7つのムダに該当することを探し出して、適切な状態に戻すことによって確実に改善成果を出すようにします。
改善成果が出ない悩みのもう一つの原因として、改善活動をした後に、元の状態に戻ってしまうことが起きる場合です。
改善の成果には2種類あって、すでに実現している成果と、改善した仕事のやり方が維持された場合に生み出される成果というものがあります。
改善した仕事のやり方が維持された場合に生み出される成果は、開始の時点ではあくまで仮定の利益であり、改善後の仕事のやり方が維持されなければ改善成果は出ません。しかし改善後の仕事のやり方を維持していくのが難しく、3か月もしたら元の状態に戻ってしまった、ということがあります。この場合は改善成果は出ていません。
なぜ改善前の状態に戻ってしまうかと考えてみると理由はいくつかあって、現実とかけ離れたやり方を提案していたのか、実践可能かどうかのシミュレーションが足りなかったのか、仕事の設計に無理があったなどがあります。このような場合には仕事の設計を見直すことと定期的なモニタリングが必要です。
その他の原因として、作業の担当者自身が新しいやり方に納得していない・腑に落ちていない場合がありますが、これは担当する人が主体的になって自ら考え、自分事として改善活動を進めてきたかどうかが重要になります。
改善成果が見えない
改善活動が続かない3つ目の理由は、「改善成果が見えない」ということです。それは改善の成果は本当は出ているのだけれど、改善成果が見えていない、成果の測定ができないという場合です。
改善の成果を知るためには、成果を測定する必要があります。成果を測定するためには、改善前の状態を把握する必要があります。改善の成果を知ろうとするなら、まず改善前の状態を把握し、次に改善後の状態を把握して、改善前と改善後の比較をして差を把握することが必要です。
小規模工場の改善活動では、改善前の状態の把握があいまいなまま改善活動に入っていくことがあります。これだと仮に改善活動によって何かが改善されたとしても、改善前と改善後の差が具体的に把握できないので、改善成果がよく見えません。改善成果を見えるようにするためには、まず改善前の状態を正しく把握する必要があります。
改善前の状態を把握をする方法は、例えば工具を探すことによって5分の時間を浪費している、これを改善しようという場合を考えてみましょう。1回あたり5分を一日何回探しているかで1日あたりの工具を探している時間を出します。もし段取り回数が1日に3回あって、段取りのたびに工具を探していれば1日15分です。月の勤務日数が22日であるとすると、1日15分×22日=330分、1か月で330分(5.5時間)の間、工具を探していることになります。これを12か月で掛け算することによって、年間で工具を探している時間が5.5時間×12カ月=66時間ということになります。さらに工場の中で同じような作業をしている人が合計3人いて、3人とも工具を探しているようなら3倍ですので66時間×3人=198時間、これが改善前に工場全体で生じている年間の工具を探すことにより生じているロス時間です。
仮に工具の5Sなどを行い改善することによって、工具を探す時間をなくすことができれば、年間で198時間の時間ロスを改善することができます。
198時間というと、1日8時間勤務とすると24.75日、約1か月です。この時間がもし手元にあれば、どれだけ良い仕事ができるでしょうか。なお、これに時間単価を掛け算すれば改善金額を算定することができます。
このようにして、まず改善前の現状把握を具体的にした上で、改善後の状態と比較することによって、改善後の生み出した成果を具体的に把握することができます。
小規模工場の改善活動に関わっていると、成果が出ないというより「成果が見えていない」だけではないか、ということがよくあります。成果を見えるようにするには、現状把握を具体的にすることがポイントです。
改善活動のマンネリ化
改善活動が続かない4つ目の理由は、改善活動のマンネリ化です。
現場作業の中で作業員が自発的に改善テーマを見つけ、改善活動に取り組んでいくのが理想です。しかし新たな課題を抽出することができず、毎回同じようなテーマを選定したり、波及効果の小さいテーマにとどまって活動が停滞していくことがあります。
停滞が当たり前のようになってくると、改善活動がマンネリ化して、形だけの改善活動になってしまって続かない改善活動に陥ってしまいます。小規模工場では、社員に改善テーマを考えることを全部任せると、行き詰ってあきらめムードになったりして、それでも形だけ進行してマンネリ化に陥ることがあります。
こんなときは、現状打破の方策が必要です。例えば工場のトップが大きな改善の目標を示して改善活動に取り組むのも一つの手です。工場として取り組むべき課題を提示して、それぞれの持ち場において自分の仕事の中で問題解決・課題達成を考えてもらうようにする方法です。
例えば工場として「段取り時間の改善」を目標に掲げたうえで、各持ち場で「段取り時間を20%削減する」という目標を設定します。これに基づいて各持ち場で段取り時間を見直して、20%の目標を達成していくための知恵を絞ることを促すのです。
他の方法としては、工場全体で大きな目標を持ち、工場全体の目標を達成するために何をすべきかを洗い出した上で、各持ち場で分担してやるべき事を改善テーマにして取り組んでいく方法があります。この場合は会社全体の目指す方向性、工場の役割などをふまえた全社的目標を持つことが必要です。
改善活動を続けていくための仕組みづくり
小規模工場で改善活動を続けていくためには、改善活動の活動を続けていくための仕組み作りが必要です。単に「改善しよう」と呼びかけるだけでなく、改善をするという行為が仕事の中に織り込まれていなければなりません。
代表的な例は小集団活動のようなグループ活動を仕事の中に取り入れて、時間を割り振って仕事として改善を行う場合です。
小集団活動は、グループで話し合うところに有用性があります。一人で考えているより、複数人が考えたほうが意見が出やすく、より良い意見も出ることが期待されます。
グループで行うことによって、より大きなテーマを取り上げることもできます。仕事の範囲が自分を越えて他の人、他の部署に影響が及ぶ場合に、グループ活動として行うほうが改善が進むということもあります。また、小集団活動のために時間をあえて取るので、普段から問題意識があったが仕事が忙しくて手を付けられない、と言うようなときに、改善の時間を使って改善を進めていくということもできます。
一方で、小規模工場の中には、人員をぎりぎりで生産を回しているような場合が多く、グループになって時間を取って改善活動をする時間が取れない、という工場もあります。この場合には、無理に小集団活動を導入するのではなく、例えば生産のロットごとに一区切りして、メンバーで集まって振り返りを行うという方法があります。組立であっても加工であっても、生産ロットや工程の中で仕事が一区切りするタイミングがあると思います。このときに関係するメンバーが2~3人でも集まって、3分でもよいので今回の生産について振り返りをして、良かった点・悪かった点を話し合います。改善すべき点が見つかれば次の行動に生かすし、作業のやり方やモノの配置・動線などを変えたほうが仕事がやりやすいというのであれば、これを改善していくというようにします。
このような改善のやり方をするとロットのたびに生産の振り返りをして改善されていくので、生産のPDCAサイクルが回って日々改善されていくことになります。このような振り返り活動を1年間続けた結果、ある製品の生産リードタイムが40%短くなった、という工場の実際の例もあります。小集団活動の時間を取れないというときは、ロットごとに振り返りをするという改善活動をしてみることをお勧めします。
小規模工場で改善活動を続けていくためには、改善活動を続けていくための仕組みを作ることが重要です。改善活動を続けていくとともに成果を測定して、成果の出る改善活動をしていく必要があります。
株式会社技術経営フロンティア・代表コンサルタント。中京大学大学院ビジネスイノベーション研究科修了・修士(経営管理学)。日本中小企業学会、日本物流学会所属。公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会正会員・専門家登録(Value Engineering Specialist)。