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2022年2月26日小規模工場の製造現場・改善活動の比較-3パターンの分類と対策
2022年3月18日
フロンティアの小林です。経営コンサルティングでかかわった小規模工場100社を分析して明らかになった小規模工場マネジメントの成功要因を紹介しています。今日のテーマは「小規模工場の改善活動が定着しない理由」です。
小規模工場の改善活動が定着しない
小規模工場で改善活動を実施しているが、長続きしない、定着しないという現実を見ることがあります。改善活動を始めたけれど長続きせず、停滞して先送りになり、いつのまにか自然消滅していく状況です。
改善活動が定着しない工場では、いつも決まって「仕事がある」「納期があるから」「お客さんに呼ばれている」などの理由が現場社員の間で聞かれるようになります。
しかし、改善活動は大事な仕事の一つであるし、納期に追われないようにするために仕事を効率化しようとしているものであるから優先順位は高いはずです。そして何より改善活動は、お客様に価値ある仕事を提供するために仕事のムダを省き、お客様への対応力を高めていこうというものでもあり、改善活動をしないままでお客様の満足のいく対応をしていこうとしても限界があります。
なぜ、小規模工場の改善活動が定着しないのか
小規模工場のうち、改善活動が定着しない工場を比べてみると、いくつかの共通点が見えてきます。そのうち次の4つを紹介します。
(1)目的がはっきりしていない
(2)やり方を教えていない
(3)改善活動の仕組みがない
(4)結果に対する評価がない
(1)目的がはっきりしていない
改善活動が定着しない工場の最も重要な共通点は、改善活動をする「目的」がはっきりしていないことです。目的を定義しないまま「改善活動をやろう」といって始めるので、現場社員の間では「何のために」時間を割いて苦労してまで改善活動をやるのか、よく見えていません。そのため、改善活動を進めているうちに少しでも困難に直面すると、自分の中で優先順位を下げて、すぐにあきらめて投げ出してしまうのです。
何のために、改善活動をやるのか。ここが抜け落ちていては改善活動は続きません。会社として職場として、改善活動の目的をきちんと定義した上で、具体的にどのようにして目的を達成・実現していくのかを考えていく必要があります。
目的には上位の目的と下位の目的があります。例えば改善活動の目的を考えるときに、「業務の効率化」のためだ、と頭に浮かんだら、次に何のために業務を効率化するのか?と自問してみましょう。さらに出てきた答えに対して「何のために」と自問してみましょう。「何のために」という質問ワードを繰り返して、目的を明確にしていくようにします。
(2)やり方を教えていない
改善活動が定着しない工場の2つ目の共通点は、改善活動のための教育機会がなく、改善活動を進めるために必要な知識を現場社員に持たせていないという点です。
改善活動が定着しない工場では、「改善せよ」といってもどのように進めるかは言わず、やり方を具体的に教えていないことがあります。それでは人によってばらつきが出て、やり方のよくわからない人は、やり方がわからないまま「言われたから仕方なくやる」ような心境になります。「仕方なくやる」ような心境では心の強さがないので、改善活動を進めていくうえで少しでも困難に直面すると、やはりすぐにあきらめて投げ出してしまうのです。
改善活動を定着させていくためには、どのように改善活動を進めるべきかについての知識を社員に持たせることが必要です。例えば改善の着眼点、テーマ設定の仕方、現状把握の程度、原因分析の方法、対策を考えるときの視点、実行計画や進捗管理の方法などです。自分から進んで学び、適切な知識を得て実践するような社員ばかりであればよいのですが、そうでない人もいます。どのように学んだらよいかさえ知らない人もいます。それを「その人次第」としていては、いつまでたってもその人の現在の能力の程度にしか結果は出ません。
小規模工場の現場で改善活動を定着させていくためには、改善活動をどのように進めるかについて学ぶ機会を設け、現場社員に具体的な知識を持たせることが必要です。
(3)改善活動の仕組みがない
改善活動が定着しない工場の3つ目の共通点は、改善活動のための仕組みが作られていないということです。小規模工場において改善活動を定着させていくためには、改善活動を定着させていくための仕組みを会社として構築する必要があります。
仕組みと言うのは改善活動を会社の公式の仕事として扱い、改善活動のためのフォーマットを作ることです。例えば改善活動のプロセスを会社として設計することです。改善活動のプロセスは、①目的と問題意識の明示、②改善活動の計画立案、③現状把握の実施、④原因と対策の検討、⑤改善策の実施、⑥評価と報告、というような着手から完了までの具体的な道筋の設計です。
他に、改善活動をするための時間を確保すること、改善活動を行うことを明確に指示すること、チーム編成をすること、役割と責任を明確にすること、改善成果の目標設定をさせることなどが必要になります。進捗評価・修正行動のための中間報告会を設けることもあります。
改善活動の振り返りの機会を確保することも重要です。メンバーで集まって改善活動を振り返り、できたことを認め、できなかったことを明らかにして、次への活動につなげていく機会です。報告や振り返りの場を作る目的で、発表・報告会を行うこともあります。
とりわけ大事なことは、改善活動を会社の公式の仕事として明確にすることです。そうでなければ一部の人だけが改善活動をしていることになり、関心を持たなかったり協力しない人が出てきます。改善活動が全社的な活動になっていないと、改善が部分的・局所的な活動になって当人は限界を感じ、他者・他部署の協力が得られずに改善活動が停滞します。活動が進まない、うまくいかないときに無気力感が生まれ、解決への取り組みにあきらめ感が出てきます。こうなると先送りしながら次第に「見ざる言わざる聞かざる」状態になったり、あるいは「まじめにやるだけ損をする」ようなことになって、そのうち活動が忘れられていくのです。
(4)結果に対する評価がない
改善活動が定着しない工場の4つ目の共通点は、改善結果に対する評価がないということです。
改善活動を行う結果、何らかの成果が出るはずです。現在の状態から何らかの改善を行っている以上、プラスになっているわけで、必ず何らかの成果が存在します。その「成果」をきちんと取り上げて評価する、やったことが報われる状態を作らなくてはなりません。
評価者はより上位の管理者がよく、小規模工場の場合は社長か工場長クラスの幹部が適しています。小規模工場では社長・工場長の社員に対する直接の影響力がとても大きいからです。
評価をするためには、最初の目標があり、成果の測定があることが必要です。最初の目標に対してどのような行動プロセスを踏んだか、どのような結果になったか、を評価します。評価した結果、良い点、変化した点を認め、できるだけ言葉にして当人に理解したことを伝えるようにします。全社員の前で良い点を取り上げる、表彰するなども成果に対する評価になるでしょう。もし期待通りいかず、評価が悪い場合は、悪い点の事実をきちんと伝えたうえで、どうすれば良いかを考えさせる、ヒントを与えるなどの接し方の工夫があると良いと思います。
評価に対する報いとして金銭を手当する会社もありますが、報酬は金銭に限らず、言葉や行動で示す報酬もあります。できたことを認めて取り上げて、褒めないとしても良い点や会社への貢献、お客様への貢献、当人の成長などを取り上げて認識することも、本人のモチベーション向上につながり、評価の一つになります。
ある会社の例ですが、改善活動の完了を経営者に報告に行った現場社員がいて、その場に私も居合わせました。社員が一通り説明した後、経営者はいきなり「そんなことしたくらいでは何にもならん」と言いました。経営者は「もっと高みを目指せ」とハッパをかけたのかもしれませんが、当の社員のはというと「せっかくがんばったのに」と投げやりになってしまい、次へのモチベーションを全く失っていました。自分なりに努力したことが報われない、と感じたのでしょう。経営者はせめて本人が報告したことの事実を言葉にして認めた上で、「こうすればもっと良くなる」というように指摘すれば、本人の捉え方は全く違ったのかもしれません。
成果の評価がなければ次への意欲が湧かず、改善活動がその場で終わってしまいます。改善活動が1サイクルしたら次の意欲がわいてくるように、社員には成功体験を得させ、自分の成長・職場の発展につながることを実感できるような環境を作っていくことが大事です。
改善活動定着のための経営者の役割
小規模工場において改善活動が定着しない工場の共通点を4つ挙げました。①目的がはっきりしていない、②やり方を教えない、③仕組みがない、④評価がないということです。これは反対にいうと、改善活動が定着する工場の共通点でもあります。①目的を明確にする、②やり方を教える、③仕組み化する、④結果に対して評価するということです。
小規模工場の経営を考えるうえで大事なことは、仕事の質を上げていくということです。仕事の質を上げるためには日々の業務改善、作業の改善活動を進めていくことです。工場を成長発展させていくためには、改善活動を進め、定着させて社員の日々の仕事に改善を習慣化していくための環境づくりが重要です。
そのためには改善活動で成功する工場から良い点を吸収し、今日あげた4つのポイント、①目的を明確にする、②やり方を教える、③仕組み化する、④結果に対して評価するということを自社の仕事・職場に取り入れていくことが早道ではないでしょうか。
株式会社技術経営フロンティア・代表コンサルタント。中京大学大学院ビジネスイノベーション研究科修了・修士(経営管理学)。日本中小企業学会、日本物流学会所属。公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会正会員・専門家登録(Value Engineering Specialist)。