製造業・工場・構内物流のマネジメント-工場の物流コストダウン診断-
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2022年8月1日
技術経営(MOT)-中小製造業の技術経営とは?初心者にもわかりやすく解説します。
技術経営とは何か?
技術経営(MOT)は、Management of Technologyの頭文字をとってMOTと呼ばれ、技術経営と訳されているものです。企業の持つ技術を経営活動、経営管理に役立て成果に結び付けていく、技術を生かして経営目的を達成していく経営の考え方の一つです。
中小製造業は特化された分野での優れた技術・技能を保有しており、これらの技術・技能に基づいて経営活動を設計し、展開・発展していくことで、技術を企業成果に結びつけていくことが有効です。技術経営は、技術を経営資源の一つとして捉えて戦略的に経営をしていくことを意味します。
技術経営が必要な理由
我が国の製造業は98.5%が中小企業であり、そのうち67%が20人以下の小規模事業者です(工業統計調査)。これは業種業界において、加工技術・使用機械別に分業されており、小規模事業者ごとに限定された分野で特化された技術を発揮していることを意味します。さらに小規模工場の場合にはベテラン作業者の技能が技術の発揮に大きく依存しており、技術・技能が競争力の源泉になっています。
しかしながら、せっかく特化された技術・技能を持っているにもかかわらず、これを上手に経営活動に展開し、経営成果に結びつけることができている企業は多くはないように思います。過去に当社において関わった100社の中小工場において「技術経営」という観点から経営活動を有効展開している企業は数社しかありませんでした。
一方で、自社で認識しているかどうかにかかわらず、ほとんどの企業は優れた中核技術を保有しており、さらに特殊な技術を適時的確に発揮できる職人的技能者が実際に存在しており、この特殊な技術・技能の発揮が競争力になってこの時代にも生き抜いているわけです。
ここでもし、自社の中核技術に基づいて経営活動を展開し、技術を企業成果に結び付けていくような会社の考え方・仕組み化・人づくりができたならば、より大きな業績向上・企業の成長につながるはずです。時代環境の変化、特殊性・多仕様性が求められる時代において、技術経営の考え方を導入して自社の技術を発揮していくことが、これから強く求められていくに違いありません。
技術経営を導入する方法
中小製造業における技術経営の導入方法は、保有技術を定義から入ります。そのための情報集収集と自己分析が出発点です。
既存を前提にした場合には、①自社の属する業種・業態の分類をしたうえで、業界において使用される機械の分類を行います。次に②機械ごとに発揮する技術の分類を行い、業界において発揮されている技術の分類をします。
なお、業種業態の技術を見渡す際は、国が出している各種の資料・白書等のほか、代表企業のホームぺージ等のWEB情報、業界紙・専門誌の情報、金商法の有価証券報告書、アナリストや専門家による企業・技術力分析の情報、特許等の知財情報を活用することが有効です。
分類をしたら、③当社の保有する機械と技術の定義、洗い出しをします。さらに④当社において保有する技術を発揮するための技能を定義し、洗い出しをします。技術は機械に帰属するものであり、技能は人に帰属するものと考えます。
なお、保有する技術の分析は、まず当社の持っている機械の機能を定義して、そこから発揮している具体的な技術を定義します。技能の分析については、業務フロー・作業手順に沿って順に定義していくとやりやすいです。技能は人に帰属するものなので、ベテラン技能者にヒアリングをして発揮している技能を言語化して定義することも有効です。
一方で、⑤顧客に期待される貢献、ニーズ、困りごと、変化等を定義します。幅広く考えると捉えにくいので、まずは自社の顧客を前提に考えてみると良いでしょう。自社の顧客との過去の取引を思い出して、⑤を定義します。
なお、顧客の期待・ニーズを定義する際は、マーケティングの考え方を活用すると便利です。市場と顧客おいて誰が何をどのように使用し、どのような便益を得ているのでしょうか、そしてどのような便益の不足があるでしょうか。技術の面から既存の顧客ニーズと潜在的な顧客ニーズを定義していくようにします。
最後に、ライバル企業を見渡してみましょう。顧客との関係で競合になっている企業を想定し、⑥ライバル企業がどのような③④を保有し発揮しているのかを定義します。顧客の評価や過去の経験を参考にして考えて、当社との違いを比較検討していくと見えてきます。
なお、ライバル企業を見渡す際には、経営学のフレームワークを活用します。例えばジェイB.バーニーのVRIOフレームワークは便利です。「経済価値」「希少性」「模倣困難性」「組織」の4つの視点で、強弱・程度などを測り定義していくものです。
上記の①から⑥によって必要な情報を得ることが出来ましたので、これらの情報を元に比較分析し、自社の保有する中核技術・技能を定義し、市場における既存のニーズ・新規のニーズを踏まえて、新規・既存における技術に基づいた顧客価値創造(価値を拡大する、価値を開拓する)の戦略を事業として描きます。
技術経営の展開
技術経営の展開について、本稿では中小工場でも特に多いと思われる加工を専業とする企業の工場経営・営業展開を前提に記しています。
営業活動に展開
技術を営業活動に展開する場合には、方向性の選択をします。既存顧客と向き合い、技術力を発揮して取引拡大を狙う場合もあり、また既存顧客に対して新しい技術の発揮による機能を提案していく場合があります。
技術をどの市場に展開していくかも選択肢です。既存の技術を持って既存市場の他の顧客へ展開する方向があり、また既存の技術を新しい市場、異業種へ展開する方向もあります。
また、新技術の開発も選択肢です。既存の技術の経験・ノウハウをもとに新たな技術領域にチャレンジし開発ていくことです。新しい技術を持って既存市場に展開するか、または新しい業種の市場に展開するかが選択肢になります。
中小工場においていきなり新しい技術を開発するのも難しい、というのも現実ですので、新しい技術の習得・技能の習得をターゲットにすると選択肢に入ってきます。たとえば板金から溶接へ、切削から研磨に仕事の幅を広げていくことにより、当社の生み出す顧客価値・相対的な市場価値を高めていくことが現実にあります。
どの方向に展開するかはそれぞれメリットデメリットがあり、技術展開の可能性を評価して判断していくことが必要です。
製造活動に展開
営業活動の展開によって価値創造の場面を増やし、受注が増大したとしても、生産体制が受注に対応できるように強化されていかなければいけません。また生産体制の強化が行われないままに営業成績が伸びていくと、生産のロスが増大しかえって利益が出なくなったり、仕事が雑になってQCDが低下してクレーム・後戻りが発生するようなことが起きて、かえって業績が悪化するということも実際に起こり得ます。
そこで営業展開を考える際にはセットで生産体制の強化も検討していく必要があります。既存の技術展開であれば設備機械の更新をふまえて検討することが必要であり、また生産のマネジメントの体制(生産管理、QCD管理等)も備えていくことが必要です。
組織能力に展開
現時点で保有する技術があり発揮する技能が存在していたとしても、受注が拡大していくことで人の不足に陥ることがあります。人の不足はここでは頭数ではなく、技能者の不足です。技能者はすぐに調達することが難しいです。たとえ経験者を外部から雇入れたとしても、同じ加工していても顧客や使用によって求められる要素が変わり、自社での適切な技能の発揮ができるようになるまでは一定の時間が必要です。
また、あらたに一定レベルの加工技能をみにつけるにあたっては、どのような加工であれ通常3年程度は時間がかかるものです。
技術経営による営業展開を考える際には、セットで人・スキルの増強計画を持ち、計画的に実行していくことが必要です。
他の領域への展開
ここでは、中小製造業に技術経営の導入・展開を考えるうえで、営業活動への展開を前提に考えてみました。
他にも、技術経営の考え方を展開することができます。例えば新事業開発、異業種展開、自社製品を持つための開発、自社製品を持つ会社の新製品開発、OEMの改良提案、顧客へのVE提案などです。
また、製品だけでなく、事業システムの構築に展開することも行われ、顧客価値創造、顧客への貢献に関する様々な経営活動へ展開し、経営目的の達成プロセスに展開していくことができます。
どのような展開場面を前提に考えるかによって、集めるべき必要な情報、具体的な展開方法が異なるため、あらためて記すことにします。
根本技術を経営活動の様々な場面に展開していくことによって競争力の強い企業、あるいは競争相手のいない精鋭企業を目指すことができます。
株式会社技術経営フロンティア・代表コンサルタント。中京大学大学院ビジネスイノベーション研究科修了・修士(経営管理学)。日本中小企業学会、日本物流学会所属。公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会正会員・専門家登録(Value Engineering Specialist)。